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うやうやしく、にがみありて、調子静なるがよし

2016/12/20




「風体の修業は、不断鏡を見て直したるがよし。」



山本常朝(1659-1719年)は葉隠の中で武士の風体についてこう語る。

「利発を面に出し候者は、諸人請け取り申さず候。
ゆりすわりて、しかとしたる所のなくては、風体宜しからざるなり。
うやうやしく、にがみありて、調子静かなるがよし。」

今風に言い換えれば、
「利発さを顔に出しすぎる人というのは、周囲からあまり受け入れられないものだ。
落ちついてどっしりとしたころがなくても格好がよいとはいえない。
丁重で苦味があって、調子の静かなのがよいのである。」
といったところだろうか。

ちょっと面白みに欠けるかもしれないが、
たしかにこういう男というのは男から見てどこか魅力的である。

利発さのみならず、地位や財力、野望の大きさや意思の強さ、
突出した才能や感性の高さなど。自身の長所となる能力や個性を
自らの風体にそのまま投影し、惜しみなく自己を表現するのが
今どきの流儀なのかもしれないが、そこを敢えて内に秘めながら
どっしりと静かに構えている男にこそ真の風格というものが
宿るのかもしれない。



「うやうやしく、にがみありて、調子静かなるがよし。」




葉隠における風体の吟味においては、どちらかというと顔つきや髪型、
面構えや立ち居振る舞いといった人間そのものの見え方、見せ方について
指南している向きが強いが、衣服というものも人の風体を司る重要な要素。

私は服をデザインする上で、見た目の華やかさや面白さ、
好奇心や遊び心といった人をわくわくさせるような側面だけではなく、
男が背筋を伸ばしてどっしりと構えたくなるような「にがみ」の要素も
大切にしながら服を作り届けたいと思っている。

緒方義志