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都市生活のための地下足袋

2017/04/24

一般的に地下足袋は底が薄く、足を覆う足袋部分は布でできている。
だから、履き心地も軽くて柔らかい。そのため、底の厚い「靴」よりも足裏から地面の情報をより多く伝えてくれ、足場の悪い地面でも歩行に安定感をもたらしてくれる。さらには、運動方向性の違う拇指(足の親指)と残りの4本の指とを分離した独特の形状が拇指の可動域を増やし、足の指が元来備えている繊細な機能を靴よりも高い次元で活かすことを可能にしてくれる。この理由から、地下足袋は主に作業履きとして、農林業、鉱業、建設業などの現場作業員から根強い人気を博し、高度成長時代にその販売量はピークを迎えた。また、作業履きとしてのみならず、その機能性の高さから、かつては我が国の陸海軍でも採用されたり、オリンピックで陸上選手が使用するほどまでに運動履きとして普及していた時代もあった。

しかし、その後地下足袋の市場は靴の流通の拡大と共に縮小し、時代の変遷と共にその需要を失い続けながら今日に至る。地下足袋の悲哀は、その誕生から1世紀も経たない実に短い歴史の中で、進化することをほとんど放棄してしまい、一方で文明の進歩と流行の移り変わりにうまく適応しながら多様性を持って進化し続けた靴の急速な普及により、またたく間に市場での居場所を奪われてしまったことだ。見方を変えれば、自らの存在価値を見失ってしまったと言った方が当たっているのかもしれない。文明は進化するもので、文化は不変のものだと捉える者もあるが、人間の生活と共に生きる文化というものは、文明の進歩と共にその形やあり方を変えるものである。必要とされる物は進化しながら生き続け、必要とされなくなった物は淘汰される。文化と文明の関係というのは意外とドライなものなのかもしれない。

では、私たちが生きる現代の生活において、地下足袋はそのように淘汰されるべき無価値なものに成り下がったのかと問われれば、私は断固否と答える。時代の流れや生活環境の変化、人々の服装やライフスタイルの移り変わりに順応しさえすれば、地下足袋は靴以上の価値を再び認められると信じる。なぜなら、地下足袋には和装文化にありがちな保守的で頑なな精神論を凌駕する合理性と機能性をしっかりと持ち合わせているからである。地下足袋とは、明治の末期、日本の伝統的服飾文化である足袋と、当時新たな産業として流通し始めた革新的素材であるゴムとが融合して生まれた文明の申し子とも言える発明品であり、文化と文明の和合を象徴するような、日本人のハイブリッドな創造性の産物であるのだ。

そんな面白い代物が、登場から100年も経たないうちに淘汰されてよいわけがない。せっかくこんなに革新的な履物を生み出しておいて、これを一時代の「文化」として博物館に飾るようなことをしてしまっては、日本人に「もったいない」を語る資格はもはやないだろう。地下足袋を古い時代の履物と誤解している人も多いが、紀元前からの歴史を有する「靴」と比べれば、地下足袋などは新参者も良いところで、むしろ未来の履物であると考えるべきである。たまに地下足袋を「忍者シューズ」と謳って販売している店などがあるが、時代考証的に言ってしまえば、忍者の時代に地下足袋は、ない。江戸時代の末期、刀の代わりにピストルを持ち、袴にブーツを合わせていた開明思想の坂本龍馬でさえ、この革新的な履物を知らない。地下足袋というのは1900年代に入ってから新たな産業によってもたらされた新素材を搭載した近代の産物であり、そういう意味で未来志向の履物なのである。だからこそ古典様式に縛られることなく自由に進化して然るべき服飾文化であるということが言える。

ところが、残念なことに地下足袋はその後さほどの進化を遂げなかった。そうこうしているうちに、人々の関心は完全に靴に行ってしまった。しかし、このことをそれほど悲観することはない。ただ、昭和に入って洋服の普及と共に一気に靴の文化が台頭し、それに押されて少しの間沈黙してしまい、進化することを怠けてしまっただけのことだと思えばよい。そして、革新的履物として登場したスピリットをそのままに、数十年の足踏み期間を経て、また未来志向の進化の道を歩めば良いのである。

今季義志が提案するのは、あくまでも街で履くための地下足袋である。高所作業などを想定していないので、足袋底は厚い。少し硬めのEVA(衝撃緩衝材)をグリップ力の高いビブラム社のブロッカーソール(blocker sole)で挟み込み、硬いアスファルトやコンクリートの地面を長時間歩いても疲れない都市生活のための履き心地を追求した。これも義志が考える地下足袋のひとつのかたちである。今まで地下足袋なるものを自分のライフスタイルに組み込んでこなかった「靴派」の人たちにもきっと満足してもらえることだろう。そして、靴を履くことで足指の存在を意識しなくなってしまった足に、新たな(というよりも、人間が元来持っていた)歩行の感覚を少しでも取り戻してもらうことができたら嬉しい限りである。

緒方義志




飛鳥

古き良きスニーカーの風貌を帯びた6穴レースアップ仕様の総革地下足袋。
アッパーには風合い豊かなスムースレザーを使用し、ミッドソールには厚みのあるEVA(衝撃緩衝材)を挟み、足袋底には安定感とグリップ力の高いビブラムソールを採用。硬い地面の多い都市生活での使用を特に意識し、必要以上に柔らかすぎない少し固めの履き心地に仕上げている。内装のライニングと中敷きには肌触りの良い馬革を使用し、長時間の着用でもムレずに心地良く履き続けられる仕様となっている。

アッパー部分の両側には、義志の符丁である「覗き亀甲」の文様を革パッチとしてあしらい義志謹製の印とした。