【進化せよ、日本】 

〜代表・緒方義志の言いたい放題21〜

 

 

 

「自重という環境美学」

 

ここに来て環境保全のキャンペーンが業界を問わず盛り上がってきています。

服飾業界もその例外ではなく、業界のなかでも目立った活動を行っている企業や

ブランドが少なくありません。この業界でよく目や耳にする環境保全を意識した

活動として、まず最も顕著なものがエコバッグの販売です。元来これは、

包装資材を節約する為に使い回しができるバッグを安価で販売し、それを客に

毎回使ってもらえば資源の無駄遣いが減るであろうという考え方に則っています。

しかし、ひとたびそのデザインや話題性で特定のエコバッグが注目されるようになると、

安価なことも手伝ってそれが飛ぶように売れる状況が生まれます。これを買った人の

ほとんどは買い物袋として使うのではなく、普段使いのバッグとして使用することの方が

多いため、今やこれは立派なファッションアイテムのひとつであると言ってもいいでしょう。

つい先日の新聞で、ある女性向けの国内ブランドが2週間で1万個以上のエコバッグを

売ったという記事を見つけ驚かされたばかりですが、このようなエコバッグの企画は

ファッション業界ではもう立派な流行であると言っても過言ではありません。

 

その他の環境を意識した取り組みとしては、オーガニックコットン(農薬を使わずに

育てた綿花で生産した綿素材)を使った商品の企画・販売や環境保護団体と

組んでコラボレーションTシャツを販売し、その一部を団体に寄付したり、または純粋に

環境保護の大切さを訴えかけるメッセージをプリントしたTシャツを販売したりするなど、

ファッション業界おいても自称「エコ」な活動が散見されます。しかしながら、この状況を

冷静に考察してみると、これらの活動の大半は販売促進の戦術として賢く利用されて

いるだけに過ぎないという裏事情も垣間見えます。それは、これらの活動が

売上という成果を例外なく追求していることからも明らかです。

 

「地球環境に対する思いと関心を示す」という行為は、今やブランドや企業の評価や

付加価値を高める広報活動の常套手段として器用に活用されはじめ、結果として

無駄な消費を喚起するという自己矛盾に陥っています。先に挙げた例は、どれも環境に

優しい商品ではありますが、モノを生産して売るという点においては消費の喚起に他ならず、

それはすなわちエントロピーの増大に加担することを意味しているのです。それを知ってか

知らずか、売る側も買う側も、本意ではないにしろ「正」の皮を被った「負」の行為に

満足してしまっているという現状がもどかしく思えてなりません。

 

近年、地球温暖化問題が喧しく、CO2の削減だのエネルギーの節約だのと

叫ばれてはいますが、この問題の元凶は消費社会そのものでしかないと私は考えています。

敢えて乱暴な言い方をしてしまえば、人間が消費活動を止めた途端にこの問題の悪化は

止まるのです。そう考えると、多くの企業の環境保全キャンペーンが消費者に投げかけている

訴えと消費の対象となるキャンペーン商品の存在そのものが矛盾をしてはいまいかという

疑問に行き着きます。エコバッグを1万個生産して市場に流通させようとしたときに、

その行為が直接的かつ間接的にこの世に生み出すCO2の量は、それを作らなかった

場合に排出されるときと比較したらどちらが多いかは自明です。であるならば、

地球温暖化に少しでも加担しないようにするには、CO2を出さないように大人しく

慎ましくいることの方が賢明であるという考え方もできるのです。

  

くどいようですが、究極の環境保全は「消費しないこと」です。しかし、ほとんどの企業は

消費という行為の上に成り立つ存在故に、消費を抑制するような呼びかけは決してしません。

「環境保全のために私達の商品を買わないで下さい」などと声を張り上げる企業はまず

ないでしょう。かといって、環境保全のために消費の源となる自らの事業をやめることも

ありえません。だから、「リサイクル」とか「節約」とか「環境にやさしい」などという合言葉を

駆使して消費者の環境破壊に対する潜在的恐怖心や自己嫌悪を和らげてやりながら、

自らも環境のことを考えた企業であることを主張しつつ、結局は「作っては売る」という行為を

促進するのです。これこそが、環境問題が真に向き合わなければならない矛盾であり、

解決方法を知った上での人間の不作為がここにあるのです。

 

簡易包装、エコバッグの導入、ごみの分別、再生資材の利用など、これらの環境保全に対する

一見積極的な取り組みは、環境保全という大義を立てつつ消費を鈍化させないようにする

極めて表面的な施術であって、本質的な解決策でも何でもありません。そもそも、モノを

大量生産して消費喚起を行っているような企業が、「私達は環境のことを考えています」などと

喧伝すること自体が実に白々しいことだと私は思っています。「考えるよりもまずは行動を」と

いう考え方が正しい場合も少なくありませんが、こと環境問題に対する取り組みについては

これは当てはまらないような気がします。むしろ、「行動するよりもまずは自重を」という

考え方の方が、今私達が取るべき姿勢のように思えてなりません。

 

それは、私達のような売上規模の小さな会社にあっても努めて意識しなければならないこと

だと考えます。例えば、商品構成のバランスを整えるために企画を恣意的に

増やしたりすることがあります。商品全体の色構成を楽しくするためとか、かたちや素材の

種類をもっと豊富にしたいなどといった理由が多いのですが、それらの理由は真の必要性を

正当化できるものではありません。あくまでもファッションというビジネスの効果性を

考えているに過ぎないのです。大手企業などは、ともすると売場や価格帯の隙間を

埋めるための商品を企画したりすることがよくありますが、このような行為も環境保全の

ことを考えるならば極力自制すべきことなのかもしれません。

 

非常に難しい課題ですが、作って売る側が必要最低限に止めて我慢するという自重の念が

芽生えない限り、環境問題の根本的原因である「過剰な消費」に対して働きかけて

いることにはならないということです。そして、大事なことは、可能な限り意味のある

ものづくりを心がける。逆に、可能な限り要らないものは作らない。そして売らない。

このことを企業が実践する意思を持つことは、環境問題に寄付をしたりエコバッグを

普及させることよりもずっと意義のあることなのではないかと考えます。少なくともエコバッグを

販売したり環境保全を訴えたりする傍ら、セールで販売するための商品をわざわざ

生産するようなちぐはぐな活動を控えるところからこの業界は始めるべきではないでしょうか。

 

 

 

※このメールマガジンは、ホームページより会員登録をして頂いたお客様、義志東京本店にて

顧客登録をして頂いたお客様、および関係者の皆様へ、自動配信させていただいております。


メールマガジン解除について
大変お手数ではございますが、
こちらからご解除下さい。
 

義志ホームページ

義志通販サイト


ご意見・ご感想・お問い合わせ: daihyou@yoshiyuki.jp