うまく表示されない場合はこちらからご覧下さい。
 
 
 
 
 

【進化せよ、日本】

〜代表・緒方義志の言いたい放題31〜

 
 

「義志足袋のすすめ」

 

私は最近、「義志はなぜファッション市場においてほとんど需要の無い

地下足袋のような履物にそこまで力を入れるのか」とよく聞かれます。

特に、ファッション業界に精通している人や企業経営に明るい人からほど、

「このように市場を一から作り上げる必要性のある商品開発と市場開拓は

それなりの規模の企業がそれなりの予算を投じ、ある程度大がかりな

仕掛けをもってしてやるべきことで、義志のように吹けば飛ぶような小さな会社が

手掛けるにはあまりにもリスクが大きすぎる」という指摘を受けたりします。

 

それでも義志は新しい地下足袋の開発をやめないのですが、確かに

言われることは尤もで、市場に需要がない商品を消費者の「欲しいもの」の

選択肢の一つに加えてもらうのは決して容易なことではありません。

そのためには、まずはその商品の存在と価値を知ってもらうことが重要で、

それを実現しないことには市場での競争の土俵に乗ることすらできないのですから、

Tシャツやジーンズなどを売る場合とは訳が違うのです。Tシャツであれば、

市場には既に「Tシャツが欲しい」と思う消費者がいくらでもいるわけですから、

その人たちに対して、うちのTシャツの方が他よりも価値が高いんだ

ということを示せばいいだけです。これは純粋に他者との競争であり、

その競争を戦える土俵は市場のそこかしこにあります。しかし、

このファッション市場において、地下足袋という商材にはその土俵すら

ありません。競合他社と品質やデザインを競争する以前に、消費者の

「欲しいもの」の選択肢の中に地下足袋という品目が存在していないのです。

そう考えると、今日のファッション業界で地下足袋を売るというのは、

レコードとカセットしかなかった時代にCDを売り出す時くらいの大きな

仕掛けの力が必要なのかもしれません。

 

「何を言ってるんだ。おまえの売っている地下足袋は昔のものを掘り起こして

新しいかたちにしただけで、これと言って新しい概念や技術を発明したわけでは

ないのだから、かつてのCDなどと地下足袋の市場開拓を一緒くたにして

先駆者ぶるんじゃない」と注意をする人もいるでしょう。確かに、地下足袋は

大正初期に発明されたもので、今でも一部の職業や嗜好性を持った人たちから

愛され使い続けられており、故に、地下足袋を製造する会社も販売する店も

ごく当たり前に存在しています。そんなことは百も承知です。しかし、それでも

私は「義志が新たな市場を創る」と主張したいと思います。それは、

日本における地下足袋の市場ということではなく、ハイファッション市場に

おける地下足袋の需要を創出するということだからです。

 

誤解のないよう補足しておくと、実際には私達よりも先にいわゆる

「デザイン地下足袋」を製造、販売している企業やブランドがいくつかは

存在しています。私は、はじめてそういう店やブランドがあると知ったときに

何とも言えない嬉しさが込み上げてきた感覚を今でも覚えています。

それらの商品が私の好みに合っていたかどうかは別として、「こういう

選択肢って、やっぱり俺たちには絶対になきゃいけない。だって、これは

日本人にしか作り得ない商品なのだから」と改めて実感したのと同時に、

「これはやらないと絶対にもったいない!」とも強く感じました。なぜ、

もったいないと感じたかと言えば、機能的には靴よりも優れていて

デザイン的には極めて独特で個性が強い、ハード(技術)とソフト(感性)の

両面において「靴」という今日ではあまりにも見慣れてしまった当たり前の

履物を超越している商材が目の前に殆ど手つかずのまま存在していることに

気付いてしまったからです。しかも、それが日本文化という自分の暮らしの

中のすぐ手の届くところにのんびりと、ただ漫然と生き長らえている状態に

あるわけです。灯台下暗しとはまさにこのことです。

 

そんなことを既存のいくつかの地下足袋屋から私は気付かされたわけですが、

だからと言って、彼らの市場に参入して地下足袋業界に旋風を巻き起こそう

などとはこれっぽっちも考えませんでした。ましてや、衰退する地下足袋業界を

盛り上げようといった同業界に対する特別な思い入れがあるわけでも

ありません。地下足袋には、むしろ、その小さな業界や日本という狭い市場を

飛び出して世界に発信していくべき実力と魅力が十分に備わっています。

その高いデザイン性と機能性は、「靴」を超える履物として世界の市場に

新しい選択肢を一つ与えてあげられる可能性を優に持っている品目なのです。

ひいては、世界のハイファッション市場においてもきっと高い価値を

見出してもらえるはずだと私は一人で確信しています。今まで地下足袋は、

ファッション業界のデザイナーからは殆ど相手にされず無視され続けてきた

だけに、そのデザインは靴と違いほとんどいじられていない無垢な状態にあり、

普通の顔をした伝統的な地下足袋にも少しの手を加えてあげるだけで

とても新鮮で目新しいものになるのです。言ってみれば、差別化がとても

容易なわけです。と言うよりも、半ば自動的に差別化されてしまうと言った方が

正しいでしょう。義志は、そんな嘘みたいにおいしいダイヤの原石を発見して

しまった感覚でいるのです。世界で勝負しようと画策している日本の履物屋は、

もっとここに注目すべきです(そして多くの企業やブランドが切磋琢磨しながら、

凄い地下足袋をどんどん世に送り出していきたいものです)。

 

そんな具合に、ファッションという一見自由でありながら、なかなかにして

排他的な概念と価値観の中に日本が生み出した地下足袋の居場所を

確保することを活動の目標のひとつに掲げようと決心したのが、今から

わずか5年程前のことです。その後、義志が地下足袋のデザインと生産に

実際に着手するに至る経緯を思うと、それが果たして偶然だったのか

必然だったのか、どちらとも取る事ができるのですが、今ではこれは

宿命以外の何者でもないと確信しています。その経緯について少しだけ

触れると、最初は、大阪でこだわりの地下足袋を企画開発しているある会社の

社長から「うちの作った地下足袋をもっとかっこよくデザインして欲しい」と

相談されたのがそもそものきっかけでした。意欲と行動力に富んだ私より

少し若い社長で、彼は岸和田のだんじり祭りで最高の活躍を約束する

地下足袋を作りたいという思いから、長時間履いても疲れず、軽くて履き心地がよく、

それでいて誰よりもかっこいい地下足袋を生み出そうと、数年を費やして

その原型を完成させたそうです。業界では著名なスポーツシューズ職人が

躯体を設計し、先端技術を擁したスポーツシューズ工場により製造された

その地下足袋を見せられたとき、私はその完成度の高さに感動し、二つ返事で

「是非やらせてください」と応えました。当初は協業で商品化していこうという

話だったのですが、以後、義志のデザインによる地下足袋の商品展開に熱中する

私を見て、彼はこの企画を義志主体で進めていくことを提案してくれたのです。

 

こうして義志足袋は半ば奇跡的に、企画から開発、そして販売へと漕ぎつけることが

できたわけですが、普通で考えたら、義志のような規模の会社ではこのような

高品質で独自性とデザイン性の高い履物を一から開発し商品化することは

まず不可能です。なぜならば、こういった商品の生産数量の単位は少なくて

何千足という水準で、超大手のスポーツシューズメーカーの主力商品などは

一型で一万足を超えるのが当たり前です。義志足袋の開発から製造までを

手がけてくれている工場も、そんな超大手のメーカーを複数抱える技術と

規模を兼ね備えた優良企業なのですが、そういう凄い工場が目先の利益を

度外視して義志に協力をしてくれているからこそ、このプロジェクトは成立しています。

 

彼らにとって、私達から依頼される何十足という小さな単位の生産数量は、

大手メーカーの営業用サンプルの数量よりも遥かに少ない数です。もちろん、

私達としては何十足、何百足で終わらせるつもりは毛頭ありませんから、

この地下足袋の凄さをもっと多くの人たちに理解してもらえるようにより効果的な

啓蒙活動を行っていくつもりですが、この状況を文句ひとつ言わずに

後押ししてくれる工場の好意的な姿勢と大きな度量にはただひたすらに

感謝するのみです。さらに頭が下がるのは、義志足袋の開発は度重なる

試作を要するため、ひとつの新型を商品化するまでに相当の時間と労力を

費やしてしまうということです。こんな効率の悪い製品の注文を受けても

恐らくは殆ど利益が出ないどころか、その物理的、肉体的、精神的手間を

考えた場合、義志と取引をすることそのものが彼らにとってのコストに他ならない

ということを、私達も痛いほど理解しています。だからこそ私達は、この工場の

恩愛に報いるためにも、義志足袋の素晴しさと先進性をできるだけ多くの

人たちに伝えていくべきだと考えています。

 

しかし、この工場は何故そこまでしてこの企画に賛同し協力をしてくれるのでしょうか。

それは、その社長が義志というブランドの将来性に期待をしてくれているからでしょうか。

それとも私の熱意を受け止めてくれたからでしょうか。

そのような自意識過剰な野暮の思い上がりはできるだけ慎むようにして、

それ以上に正しい動機としては、地下足袋という商品が内に秘める計り知れない

可能性を先見されたことが大きいと考えます。さらには、靴よりも難しい地下足袋を

どこよりも高い品質で見事に製品化してしまう技術力に対する自負と、

新しい領域を絶えず開拓していこうとする飽くなき探究心。さらには、日本の

履物工場として、日本人が歴史的に履物に対して要求してきた高い機能性と

その根底にある考え方そのものを継承し昇華する責任のような意識も

どこかで感じていらっしゃるのかもしれません。

 

いずれにしても、義志の地下足袋は、株式会社義志の思いだけではなく、

その企画、開発、生産に関わる全ての専門家達の新しい価値を創出しようとする

高い志と熱い思い、そして目先の商売ではなく履物の未来を見据えた期待と希望と

意地と誇りの結晶だということです。このような商品が現在市場に存在し、

それが実際に店で買える状況にあるというのはほとんど奇跡的であり、

誇張を恐れずに言えば、これはファッション史におけるフライングもいいところです。

履物に対する考え方における進化の過程を10年分くらいすっ飛ばしてしまって

いるのかもしれません。そして、これはたまたま運命的に義志が地下足袋に

熱い思いをかける先駆者たちと出会ったことで始まった展開であり、まさに

この特定の人たちと知り合うことがなければ、現時点においての私の地下足袋

プロジェクトはどこまでかたちになっていたか甚だ怪しい限りです。義志足袋とは、

そういう奇跡的な出会いが連鎖して宿命を帯びた商品企画であり、その存在は

地下足袋業界、履物業界、ファッション業界、スポーツ業界、和装業界の

いずれの業界においても今後の動向が注目されるべき極めて特別で

貴重な草分けであると言っても過言ではありません。

 

地下足袋をデザインしていて思うことは、実はこのかたちは靴が進化した先に

辿り着く究極のあり方なのではないかということです。なぜならば、地下足袋の方が

靴よりも構造がより立体的で複雑であり、それはひとえに可能な限り

足の持っている機能を引き出そうとしているからです。そのために親指のためだけの

独立した袋を作っているのです。履いてみればすぐに体感できることですが、

靴の中ではその重要な役割がさほど実感できない足の親指の存在が、

地下足袋の中でははっきりと感じ取ることができます。近年、マラソンや

バスケットボール、テニスやバトミントンなどのスポーツウェア業界で、

足袋型靴下が増えてきているのもまさにそういう理由からです。足の親指を

ひとつの独立した機能としてより自由な運動をさせてあげることで、人間の足は

地面を押したり蹴ったり掴んだりする力を更に高めることができます。

この機能を追及していけば、靴下を足袋型にしただけではまだ不十分

であることは自明であり、最終的には人体工学や運動工学が遅かれ早かれ

地下足袋のような形の靴を生み出すに違いありません。

 

いつかきっとそんな時代が来るだろうと私は無責任に予言しますが、

そんな時代が来なくても義志は既に未来の履物の開発に着手し、販売を

開始しています。その未来を気長に待てる人は現代の靴で今を楽しむのも

良いかと思いますが、ちょっとせっかちで好奇心旺盛な人や少しでも早く

近未来の履物を体験したいという人は、是非義志足袋を試してみてください。

地下足袋は過去の履物だという印象を持つ人も多いかもしれませんが、

義志足袋には一切の懐古趣味も無ければ民族主義もありはしません。

そこにはただひたすらに、快適さを追求する文明の知恵と、何歩も先を行く

ファッションのかたちがあるのみです。

 

本年、義志は最低でも3型の新型の地下足袋を発売する計画です。

そのうちのひとつである「武蔵」という商品がつい先日入荷しましたが、

自画自賛ながらも大変素晴らし出来栄えで、デザインも今までの「隼」シリーズとは

趣を異にした静けさの中に鋭さを宿す洗練された作りに仕上がっています。

この「武蔵」を筆頭に、義志足袋は今年も更に進化し続けますので、時代の数歩先を

行くこの地下足袋をまだ体験されていない方は、今年こそ義志足袋を履いて

履物の次なるステージへと一歩足を踏み出してみてはいかがでしょうか。

 
 

※このメールマガジンは、ホームページより会員登録をして頂いたお客様、義志東京本店にて顧客登録をして頂いたお客様、および関係者の皆様へ、自動配信させていただいております。
 
※このメールマガジンは、ホームページより会員登録をして頂いたお客様、義志東京本店にて

顧客登録をして頂いたお客様、および関係者の皆様へ、自動配信させていただいております。


メールマガジン解除について
大変お手数ではございますが、こちらからご解除下さい。

義志ホームページ

義志通販サイト


ご意見・ご感想・お問い合わせ: daihyou@yoshiyuki.jp